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イ・ビョンホン 軸のぶれない演技者

※2009年1月発行「恋する韓流」(朝日新聞出版)より ※文章の転載はご遠慮ください

大規模イベントが主流になってきた中で、二〇〇六年、東京ドームで行われたイ・ビョンホンイベントにはやはりスターの底力を見せつけられた。
正直、席が埋まるんだろうかと思っていたのに、見事に四万二千人が集結したからだ。
私はその日、イベント終了後の記者会見と打ち上げパーティーの司会をすることになっていた。
イベントが終わるや、すぐにドーム内の場所を移して記者会見だったので、イ・ビョンホンを会見場で待ち受けて、そこで初めて顔を合わせる形だったのだが、ここで私にとって印象的な出来事があった。
イ・ビョンホンが会見の途中で、チラッと司会席のこちらを見てニコッと笑ってくれたのだ。
以前二回ほどファンミーティングの司会をしたことはあるものの、ずいぶん久しぶりだったのだが、覚えてくれていた。
私もこっそりと会釈を返して、これはほんの一瞬だけど「ふたりだけの時間」という感じでうれしかった。もちろん言葉を交わす時間はそれ以降もなかったので、ファンの皆さんにはお許しいただきたい。
思えば、私が韓国俳優の中で最初にインタビューしたのが、イ・ビョンホンだった。二〇〇〇年のことだった。自分の本の取材でインタビュー申請をしたのだが、なかなかアポが取れなくて気を揉んだのを覚えている。
『JSA』(00年)の撮影が始まったばかりで何かと忙しく、ミーティングやらなにやらであちこちの移動が多く、落ち着いてインタビューを受けられる時間が取れないということだったが、急遽時間が出来たということでいきなり実現したのだ。
そうして指定されたのが、リッツカールトンホテルのカフェ。
このときのイ・ビョンホンはおなかがすいていたのか、マネージャーが注文しておいたアフタヌーンティーセットのサンドイッチや果物をぱくつきながら、身振り手振りを交えながら男っぽく、気さくに、チャーミングに話をしてくれた。
私は初めての韓国俳優へのインタビューということでかなり身構えていたのだが、なごやかに進んでホッとしたのを覚えている。
そして、インタビューを終え、お会計をしようとレジに行くと、すでに一足先に帰ったイ・ビョンホンのマネージャーが支払済みだった。
なんということか。インタビューさせてもらう側が払うのが普通なのに、私が日本から来たということで心遣いをしてくれたようだ。


その後も二度ほどファンミーティングの司会をした。
ビョンホンは質問を聞いてから間を取って、じっくり答えを考えてから話し出す。その‘間’がまた絵になるのだが、一方で「聞いてはいけないことだったのかしら?」と聞き手をドキドキさせもする。そして口を開けば低音の美声で気のきいた答えをつむぎだす。
まさにビョンホンマジックである。
最初のファンミのときには、イベント前夜、イ・ビョンホン本人が歌の音合わせにも現れた。ファンミでは歌がいまいちでも歌手ではないのだからご愛嬌で済むのに、それをわざわざ別日にリハーサルに現れるのだから、イ・ビョンホンの完璧主義なところがうかがえた。
そして当日、当たるライトにも気を遣っていて、そこでの会話を聞いていると、ウォンビンやペ・ヨンジュンのファンミをどこかで見ていて、そこでのライトがいまひとつだと思ったようで、自分のときにはこんな感じでやってほしいとお願いしていた。
「さすが研究熱心」とこれにも感心したことがある。
その数年後の東京ドームのイベントを見て新たに感じたのは、彼は完璧主義に加えて、あまり弱みとか悩みを人に見せたくないんだな、ということだ。
感極まって泣きそうになっても、ひとり控え室に行って目頭をぬぐうくらいで、お客さんの前では絶対に見せない。
それが、イ・ビョンホンがイ・ビョンホンであるゆえんなのかなと思った。いつでも男らしくありたいから、涙がこみ上げてきてもググッと押さえている。そんな発見もあり、イ・ビョンホンの大事な一日に仕事で関わることが出来て、とても光栄だった。
イベント終了後の会見で、イベントが無事成功に終わったことで、「これでやっと映画の役作りに専念できる」とほっとしたコメントをつぶやいたのが、やはり役者だなと思った。
彼と作品に携わった人はみんな言う。
「いつも自分の役柄に対するアイデアを積極的に出してくるので、作り手としてもすごく刺激を受ける。ぜひもう一度仕事をしたい人だ」と。
‘大スター’としての周囲の華々しさとは裏腹に、ビョンホン自身はあくまでも軸足がぶれることなく‘演技者’としての道をしっかりと歩いているのがうれしい。

 

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