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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

㉑マナーと知性を重要視

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

目上の人には礼儀正しくというのが叩き込まれている韓国。日本もかつてはそうだったはずだが、どうも最近それがおぼつかないので、韓国の若者の礼儀正しさにはいつも感動してしまう。

例えば、お酒を飲むときは体を横に向けて目上の人に対してコップを隠すようにして飲む。

『猟奇的な彼女』で、チャ・テヒョンが酔いつぶれたチョン・ジヒョンを親元に送り届けたとき、彼女の父親にお酒を勧められて飲むときにこの動作をしていた。最初、体を右に向けて飲もうとしたのだが、ちょうど右側に彼女の母親が座ってにらんでいたために、あわてて左側を向いて飲むというシーンだった。

これは他人に対してだけではなく、実の親の前でもそうだ。『ラビングユー』に出てくるようなお金持ちの財閥の家だろうと、『春の日は過ぎゆく』のユ・ジテが暮らす庶民の家だろうとこれは変わらない。親子で話すときも敬語を使っている。

これはドラマなどで注意して見ていると、人によっては母親には普通の口調で話していても、父親には必ず丁寧語や尊敬語を使っている。ドラマだから青少年たちに模範を示すと言う意味もあるかもしれないが、知り合いの30代韓国人女性によれば、実際に父親はやはり別格の感じがして、丁寧語で話すといっていた。

それだけ、韓国では特に父親に対して厳格な礼儀が存在している。だからその知り合いの女性は、日本に来た当初、父親のパンツは汚いから一緒に洗濯しないなど、父親が子供たちから邪険にされている様子を見て非常にびっくりしたそうだ。

また目上の人の前ではタバコは吸わないし、食事も先に手をつけたりしない。このあたりは日韓合作の『ソウル』という映画の中でも、ちょっと大げさじゃないかというほど強調して描かれている。

日本から捜査に協力することになった若手刑事の長瀬智也はそんな韓国の礼儀を知らずについついポカをやらかしてしまうのだが、そのたびに韓国の刑事チェ・ミンスからグーで殴られ怒鳴られていた。

実際に2002年に岩手県盛岡市で開かれた「みちのく国際ミステリー映画祭」に『黒水仙』の、ベテラン、ペ・チャンホ監督と『バンジージャンプする』の新人監督、キム・デスン監督が一緒にゲストで来日したとき、キム・デスン監督は、個人的にすごく尊敬しているペ・チャンホ監督と話ができてすごく光栄だと話す一方で、本来ならヘビースモーカーなのにタバコが吸えなくて、それだけはちょっとつらいなあと漏らしていた。

やっぱり目上の人の前では本当に吸わないものなんだなあと実感したひとコマだった。

握手をするときも、目上の人と握手するときは左手を右ひじのところに添えたり、右胸に手を置いたりする。この姿勢がとても繊細な感じがして、特に男性がやるのが私は大好きである。

髪を派手に染めてクールに決めた若手歌手が、さっきまで激しいラップを強面で歌っていたのに、握手となるとこのしぐさをするので、そのギャップに胸キュンとなる。

ファンに対するサイン会などのときも、一人一人のファンに対してこのしぐさで握手をしている若手スターにものすごく好感を抱いてしまった。

握手だけでなく、物を差し出すときにもこのしぐさになる。だから韓国の人と名刺交換をするときは、日本人は名刺を両手で差し出すが、韓国の人は片手で差し出し、もう一方の手は胸元に置いているか、差し出した腕のひじあたりを支えている。

以上つらつら挙げたように、今の日本が忘れているような礼儀をそこここで見ることができる。だから韓国では、芸能人にもそうした礼儀正しさを踏まえた立ち居振る舞いのスマートさを求める。「マナーのよさ」は、人気スターの重要な条件なのである。

そして知的であるということもポイントが高い。韓国では「サ(=士、師、事)」の字がつく職業の男性が婿として人気が高いという。「弁護士」「博士」「医師」「検事」。

とにかく知的な肩書きが好きなのである。韓国で最も尊敬を受ける職業は大学教授だとも聞くし、やはりこれは両班(ヤンバン)が尊敬されてきた韓国の歴史的な背景から来るのだろう。

だから俳優や歌手といった芸能人たちもみんなこぞって大学に進学する。訳あって高校卒業後すぐに行けなかった人も、スターになりお金を稼ぐようになってから改めて通ったりする。

日本ではちょっと珍しいと思えるほど眼鏡をかけた大スターが多いのも、知的な人が好まれるという事情があるからかもしれない。ハン・ソッキュ、パク・シニャン、ペ・ヨンジュンなどは、役によって眼鏡なしでも演技するが、普段から眼鏡がトレードマークになっているスターである。

ほかにも、キム・テウ、ソン・シギョンなど、眼鏡をかけたやさしげな顔立ちの男性は韓国では好まれる。眼鏡をかけると知的度が2、3割上がって見えるから、韓国では眼鏡をかけた人が好感を持って受け入れられるのだろう。

 

参照作品

『ソウル』
2002年作品
監督=長澤雅彦 脚本=長谷川康夫 出演=長瀬智也、チェ・ミンス、キム・ジヨン
逃亡犯を韓国まで護送した日本の新米刑事早瀬が偶然ソウルで現金輸送車強奪事件に遭遇。犯人の顔を見ているため、早瀬は捜査協力をすることになる。韓国側のキム刑事は早瀬が気に入らずことごとくぶつかるが、次第に互いを認めあっていく。