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映画『私たちの幸せな時間』が二人のアイドルを成長させた理由

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2007年7月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

この初夏に日本で公開される映画『私たちの幸せな時間』は、3人を殺した罪で死刑を宣告された死刑囚の青年と、3度の自殺を試みた女性の出会いの物語。女性は、家が金持ちで、大学講師という仕事もあり、一見恵まれた環境にいながら、それでもぬぐいようのない絶望感を胸に抱いている。とげとげしい言動で周りを威嚇し、自分をも傷つけるような、鋭くもガラスのような壊れ易い精神の持ち主だ。

一方男性のほうは、幼いときから社会の底辺で育ち、悪に手を染めずには生きてこられなかった不遇な生い立ちで、人生に絶望し、ただ死ぬ瞬間だけを待っている男。そんな2人が週に一度、刑務所の中で面会を繰り返していくうちに、互いの閉ざされた心が変化を遂げていく。

主演は1981年生まれのカン・ドンウォンと79年生まれのイ・ナヨン。この作品を見てとても感動したのだが、映画の内容自体もさることながら、この重いテーマの難しい役どころを、よくぞこの若い2人が見事に演じたなという事実にも感動した。

そもそも人気作家のベストセラー小説が原作だけに、役を望んだ俳優たちは多かったそうだ。だがふたを開けてみれば、花のように美しい美男子カン・ドンウォンと、CM界の妖精ともいわれ、清潔な美しさが際立つイ・ナヨンという若手スターたちがキャスティングされた。当初は、‘ミスキャストじゃないか’、‘彼らにこなせるのか’といった不安の声も上がったという。だが、メガホンをとった『力道山』や『ラブ・レター~パイランより~』などのソン・ヘソン監督は、この映画がカン・ドンウォンとイ・ナヨンの再発見になると言い切った。

まずは監督と主演の2人はホテルに数日こもって徹底的にシナリオ分析したのを始め、カン・ドンウォンは、家でも手錠をかけて生活し、実際に独房で数日過ごしたいと申し出たそうだが、刑務所から断られたそう。それほどの意気込みで死刑囚役に取り組んだ。

また地方出身のカン・ドンウォンは、今ではなまりを克服し標準語で活動しているが、今回は監督の提案で、役の人物をドンウォンと同じ出身地にし、彼のなまりを生かした設定に変えたそうだ。もっともこの提案に対し、ドンウォンは自分に楽をさせようという意図なら嫌だといったそうだが、なまりがあるほうが劇中のキャラクターに合うことがわかり、なまりで通すことにしたのだそう。

イ・ナヨンは今回初めて有名な演技の教授から演技指導を受けたという。だがクライマックスの撮影時にはかなり苦労をした様子で、あまりに泣けて感極まり、セリフを言うことができなくなってしまい、40回近くもテイクを重ねたそうだ。そのとき自分はもう演技が出来ないんじゃないかと自分を責めたらしいが、この、自己を厳しく追い込む経験を経て、イ・ナヨンの演技は変わったのだそうだ。

出来上がった作品は大好評を得、観客300万人を動員。当時の、ラブストーリージャンルの興行記録を更新し、2人は大韓民国映画大賞ネチズン観客賞を揃って受賞した。監督は、美しすぎるゆえに演技への評価がされにくい2人の潜在性を呼び覚ますことができたことが、この映画がもたらした最大の喜びのひとつと語っている。その成果をぜひスクリーンで確かめて欲しい。

延長戦コラム

注目作に次々出演。俳優として急成長のカン・ドンウォンの隠れた努力

『私たちの幸せな時間』でアイドルスターからの脱皮に成功したカン・ドンウォン。そうはいっても美しさに変わりはないので、CMでは相変わらずアイドルスターの感じで活躍しているが、やはりめきめきと映画俳優としての株を上げている。『私たちの~』に続いて出たのが、なんと声だけの出演となる『あいつの声』だった。

これは実際に起こった幼児誘拐事件を題材にした映画だが、カン・ドンウォンは、電話をかけてくる誘拐犯の声を演じているのだ。主演は名優のソル・ギョング。声だけといっても、カン・ドンウォンは自分の出番がない日でも、ソル・ギョングが演技するときには現場に顔を出し、自分は映らないのに隣に座って声の演技をしてみせ、ソル・ギョングのリアルな怒りの感情演技を引き出すのに協力していた。この、ドンウォンの演技に対する真摯な姿勢には先輩俳優のソル・ギョングも感心して誉めていた。

最新作は、初恋の亡霊に苦しめられるベストセラー作家を演じる『M』。『デュエリスト』でタッグを組んだイ・ミョンセ監督作品に再登板。これは今年下半期に公開予定だ。こんなふうに人気に溺れることなく、地に足をつけて着実に演技者として階段を上っている姿勢が多くの好感を引き寄せ、今年演技変身が最も期待される俳優の1位に選ばれている。

 

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