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長い無名時代、一重瞼のコンプレックス…『シルミド/SILMIDO』ソル・ギョングのブレイクまでの悪戦苦闘

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2004年7月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

韓国で初めて観客動員1000万人を突破した話題の映画『シルミド/SILMIDO』が6月に日本でも公開されるが、その主役を演じているのがソル・ギョングだ。1968年生まれの36歳。2000年、映画『ペパーミント・キャンディー』で、韓国の現代史を背景に、時代に翻弄された男の20代から40代までを見事に演じきり、映画界が発掘した至宝と絶賛された。言ってみれば遅咲きの花だが、これでブレイクして以降は映画界に欠かせない演技派スターとして君臨している。今でこそ作品に恵まれ、人気を謳歌している彼も、デビューしてから決して順風満帆ではなかった。

ソル・ギョングは当初演出家を目指して、演出のためにはまずは演技を知らなければという理由で大学の演劇科に進んだ。そこで演技する魅力に目覚め、卒業後に劇団に入った舞台出身の背景を持つ。舞台時代は「地下鉄1号線」という有名なミュージカルに出演して注目を浴びた。20ヶ月のロングラン公演となり、ソル・ギョングは80余りある役のうち2つの役を除いてすべてを演じたそうだ。

このあと活躍の場を映像に移すが、やはり舞台と映像とでは求められるものが違ってくるせいか、しばらくパッとしない時代を過ごした。確かにソル・ギョングの顔はこれといって特徴のない印象の薄い顔だ。そのインパクトのない顔こそが、今となっては役によっていかようにも変われるという俳優としての武器ともなっているのだが、当時は自分の顔にコンプレックスを抱いていたそうだ。何度か屈辱的な目にも遭い、「どうして僕は二重瞼じゃないのだろう」と瞼にのりを付けて二重にしてみたりもしたそうだ。

96年の映画デビュー作『つぼみ』ではその他大勢のようなチョイ役だったが、撮影監督から「君のような顔がとても好きなんだ」と声をかけてもらい、これが大きな励みになったという。

今日本で見ることの出来る作品で言えば、『ディナーの後に』や『ユリョン』で、ブレイク前のソル・ギョングの姿をちらりと見ることが出来る。出番は少ないが、これらの演技が次へとつながり、『ペパーミント・キャンディー』への抜擢へとつながるのである。時代にも友人にも裏切られ、心がすさみきった姿から、時代を遡ってまだ無垢だった20代を演じなければならないという難しい役だけにかなりの苦労をしたそうだが、公開されてみれば華々しい賞賛の声が浴びせられることとなった。この作品では新人賞や主演男優賞はほぼ総なめ状態だった。

重い役の印象が強いが、コメディーもお手の物。『公共の敵』という刑事ものでは、ちょっとだらしない人間味たっぷりのやさぐれ刑事をコミカルに演じて、映画関係者も唸るほどの芸達者ぶりを見せているし、『ジェイル・ブレーカー』では、恋人の心をつなぎとめようと必死に脱獄するチンピラに扮して爆笑ものの面白演技を披露した。かと思えば、『オアシス』で、社会に適応できない前科者の男の純な愛を表現している。また『燃ゆる月』の激しく一途な熱い愛の演技も忘れられない。

どんなものでも演じられるまさにカメレオン俳優で、その演技力は尊敬すらされている。もやは名作の陰にはソル・ギョングありという感じで『殺人の追憶』のソン・ガンホと並んで韓国映画界を背負って立つ二枚看板になっている。

新作は現在撮影中の『力道山』。実在の伝説のプロレスラー力道山を演じるだけに体重を大いに増やして役に取り組んでいる。彼の演技がどうすごいか、まずは『シルミド/SILMIDO』を見てみるべし。