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韓国社会の変化がわかる韓国ドラマ(前)

※初出2001年4月発刊「韓国エンターテイメント三昧vol.2」(芳賀書店)2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)にも掲載

以前のコラムで人気ドラマの10年史について高視聴率作品を文化背景と共に紹介したが、ここでは視聴率にとらわれず、90年代の韓国のドラマ史において、意味があり、社会的にも影響を与えたドラマをその理由と共に列挙してみることにした。

韓国の民主化は1987年からだ。まだ最近のことである。私などがのほほんと大学生活を送っていた頃、お隣韓国ではようやく民主化が始まったのだ。それまでは政治的にすごく抑圧された社会だった。そのために80年代まではドラマでも社会性の強い作品はいろいろと制約があり作られなかった。だからほとんどがメロドラマか家族物。90年代に入ってようやく、徐々に政治性のあるドラマも製作されるようになってきた。

しかし90年代も後半に入り、特に2000年になってからは、制作をする側も、スケールの大きいドラマチックな素材でなくても、日常生活を面白く淡々と、気軽に、視聴者にリラックスを与えるものが良いというように考え方が変わってきたという。

 

91~92年『黎明の瞳』(MBC)36回
PD:キム・ジョンハク 脚本:ソン・チナ
主演:チェ・シラ、パク・サンウォン チェ・ジェソン

90年代に入って映像美を重視する、映画を思わせるようなドラマが登場し、内容もバラエティーに富んできたという。そうした状況の中で出てきた代表作が、91年から92年にかけて放映された『黎明の瞳』。製作技法自体も映画の撮影と同じようにスケールが大きく、野外撮影もした。PDのキム・ジョンハク監督は映画監督に引けを取らないようなドラマ監督が誕生したということでも話題になった。またドラマの中で従軍慰安婦のことが本格的に取り上げられたのもこのドラマが初めてといっても過言ではない。このドラマで主演を務めたチェ・シラは、それまではどちらかというとアイドル的な感じが強かったが、このドラマで演技派へと生まれ変わった、彼女の代表作でもある。この、キム・ジョンハクPD、脚本家のソン・チナコンビがメロドラマから離れてテレビドラマでも社会的なこと、政治的なことを題材に出来るということを示してくれたことに大変価値のあるドラマ。これが次の段階に進んで95年の『砂時計』へと至ったのである。

 

92年『嫉妬』(MBC)8回
PD:イ・スンリョル 脚本:チェ・ヨンジ
主演:チェ・ジンシル チェ・スジョン

韓国でトレンディードラマという用語が初めて使われたドラマ。「トレンディードラマ」という用語自体が日本のフジテレビから出てきた言葉で、それが示すように日本色の強いドラマだった。90年代に入ってから80年代には無かった若者たちの新世代文化をドラマに表した作品で、チェ・ジンシルを大スターにした代表作。そしてこの作品はCFみたいな撮影技法を取り入れている。つまり感覚的で画面がきれいで、物語のテンポが速いということだ。この作品以降のほとんどのドラマがCF撮影技法の影響を受けた作り方をしている。それだけ特別な意味があったドラマ。女性主人公のキャラクター設定が日本の純情漫画に出てくるような人物設定にしていることや、日本のドラマ好きの視聴者からは日本で89年に放送されたドラマ『東京ラブストーリー』に似ていると話題になったりもした。90年代に入って音楽界にソテジが現れてから大衆文化のターゲットはほとんどが10代中心になってきた。ドラマでいえばこの『嫉妬』をきっかけにして大衆文化全体が10代20代に焦点をあてるようになったという。言ってみればソテジと並び称されるドラマなのである。

 

93年『第3共和国』(MBC)26回
PD:コ・ソッマン
95年『第4共和国』(MBC)30回
PD:チェ・ジョンス 主演:イ・ジンス、パク・ヨンシル

2作品共に90年代を代表する政治ドラマ。第3共和国とはパク・チョンヒが大統領に就任した1963年から、執権体制を改変しようとしたいわゆる十月維新の1972年10月までの時代のこと。第4共和国はそれ以降、1979年の10月26日にパク・チョンヒ大統領が腹心の部下の中央情報部長に射殺され、チョン・ドファン政権が誕生するまでの時代のことを指している。軍事政権を経てきて、その当時いろいろタブー視されていた政治的素材がたくさんあったが、90年代になってこれらのドラマで初めて取り上げられた。

『第3共和国』では、1917年のパク・チョンヒ大統領の誕生から、教師時代を経て大統領になり、1972年10月17日の10月維新までを、当時のニュースフィルムや当事者たちのインタビューを交えてドキュメンタリータッチで描かれる。例えば、第1話は「人間パク・チョンヒ」という副題で、日本の支配下でのパク・チョンヒの少年時代、小学校で教壇に立ったり、日本の陸軍士官学校に入学した青年時代などが描かれている。そのためパク・チョンヒが剣道をしたり、日本語で会話する場面も出てくる。

それからほぼ2年後の『第4共和国』では、ドラマの始めに「このドラマは各種参考資料など、関連人物の生々しい証言をもとにして制作された」とのテロップが入り、1979年10月26日のパク大統領暗殺に至るまでの人物の心の動きが時間を追って描かれている。そのパク大統領の銃殺事件から軍事クーデター、光州事変などが描かれる。ドラマ的には『第4共和国』の方がよりドラマらしく、人物の心の動きなどが緻密に描かれていて面白い。また70,80年代の韓国の激動の現代史を理解する上で非常に大きな意味を持つ作品である。パク・チョンヒ大統領、後の大統領チョン・ドファンは当時保安司令官として登場。こうした実在の人物が主人公だけに、俳優もスターを起用するというより、それぞれに似ている人を捜してキャスティングされ話題になった。隣の国のことなのに、つい最近までこんなに政治的な抑圧や、動乱があったということに改めて驚かされる。ぜひ日本でも字幕入りでじっくり見たいドラマである。

 

92年『愛がなんだ』(MBC)
PD:パク・チョル 脚本:キム・スヒョン
主演:チェ・ミンス ハ・ヒラ イ・スンジェ

キム・スヒョン脚本のホームドラマで、歴代視聴率の第2位を記録する大ヒット作品。チェ・ミンスの家は亭主関白の父親に、従順に従う妻という保守的な韓国の家庭。恋人のハ・ヒラの家は、1男2女の5人家族だが、夫は妻のために朝コーヒーを入れてあげたりする洋風な家庭。この対照的な生活背景を持った2人が結婚して巻き起こる騒動が描かれている。キム・スヒョンはもともとスター作家ではあったが、この作品で、キム・スヒョンを越えるドラマ作家はいないという評価を固めた。どちらかといえば平凡な内容だが、独特な話術で話題になった。『愛がなんだ』で父親役を演じたイ・スンジェという役者はこのドラマの大ヒットで国会議員にまでなったそうだ。チェ・ミンスもこれで大衆的人気を得た。

90年代になって、トレンディードラマが爆発的人気を得て、音楽でも新世代を中心に10代にターゲットを絞ったものになってきたが、それの一つの逆反応としてやはり根強く韓国社会は昔から大家族を美徳にしてそれを基本にして形成されてきた社会だから、韓国社会に置いては依然として大家族ドラマがまだまだ人気があると立証できたドラマだ。

 

94年『愛をあなたの胸に』(MBC)16回
PD:イ・ジンソク 脚本:イ・ソンミン
主演:チャ・インピョ シン・エラ イ・スンヨン

『嫉妬』に次ぐトレンディドラマとして位置づけられており、中でも社会的影響も大きく大ヒットした作品である。主演のチャ・インピョは、ドラマの中でのかっこつけた指を指す仕草が大流行したり、サックスを吹く役どころだったことからジャズがヒットしたというように、シンドロームを起こすほどの人気者になった。チャ・インピョ以前の韓国の男性俳優にはセクシーさでアピールできる人がいなかったという。それまで「セクシー」というと男性の場合は、筋肉質でどちらかというと否定的イメージが強く、女優の場合でも、セクシーな女優は軍人にしか人気がないというイメージだった。それが90年代に入ってから「セクシー」と言われれば、それは最高のほめ言葉として受け取られるようになった。チャ・インピョの登場で「あの人はセクシーで素敵だわ」とみんなが堂々と言えるようになったという。それほど彼の登場は衝撃的だったのだ。この系統を引き継いでいるのが、同じPDによる97年の『星は私の胸に(日本紹介タイトル『星に願いを』)』だ。