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韓国社会の変化がわかる韓国ドラマ(後)

※初出2001年4月発刊「韓国エンターテイメント三昧vol.2」(芳賀書店)2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)にも掲載

95年『風は吹いても』(KBS)
PD:イ・ヨンヒ 脚本:ムン・ヨンナム
主演:チェ・スジョン ユン・ニュソン

一日連続ドラマの中では視聴率1位を記録したドラマ。ドラマの中でもミニシリーズは短期的で、優れた作品性のあるものが人気があって、毎日やる一日連続ドラマは作品としても劣るし、おばさん向けとしてどこかさげすまれてきたところがあった。それが『風は吹いても』の成功で、一日ドラマを再認識するきっかけとなったのである。8時30分から始まるために、このドラマに続いて次の9時のニュースの視聴率がMBCより上になったという効果をもたらした。これ以降テレビ局はこの枠のドラマには力を入れるようになったという。

 

96年『愛人』(MBC)16回
PD:イ・チャンスン 脚本:チェ・ヨンジ
主演:ファン・シネ ユ・ドングン

韓国の90年代の性意識の変化をもたらしたドラマ。

イベント企画会社につとめるファン・シネはエリート会社員の夫と一人娘に恵まれた一見幸せな奥様だが、家庭を顧みない夫に内心不満を募らせている。造園設計者のユ・ドングンは家庭的な妻と子供たちに囲まれ、何の不満もないといった平凡な男だ。その2人がひょんなことで知り合う。男も最初は「人妻だったなんて、会って時間を無駄にした…」なんてぼやいていたにもかかわらず、会う回数は増え、おのずと惹かれ合っていく…というもの。儒教社会の韓国では、それまでは「不倫」という素材を悪いこと、タブーなこととして取り上げてきたが、この『愛人』では「不倫」もひとつの愛の形で人間の自然な感情から生まれた行為として描いた。そのせいで、国会でも一部の保守的な人達から「韓国の性意識を完全にひっくり返す汚染物質のようなドラマである」として非難された。90年代に入って韓国の社会全般は激しい変化を迎えた。性意識も過渡期にある時に生まれたドラマで、性意識も時代によって変わっていくもので、その流れを淡々と描いたドラマと捉えられている。世の奥様たちからはドラマの中で今までになかった目新しい世界に触れることが出来て、自分もああいう恋がしてみたいと代理満足を覚えたとか。しかし、この主人公の2人は決して一線を越えない。キスだってほんの1,2度程度である。それなのに汚染物質だとまで言われてしまうなんて、韓国社会がいかにお堅いかがわかるというものだ。主演のファン・シネは80年代に出てきたスター。美人女優として女性たちの「整形してなりたい顔」ナンバー1だった。結婚、離婚を経てしばらく空白があったあと、この『愛人』で円熟した演技を見せて再評価を受けることになった。このドラマは結婚しても変わらず独身のようなきれいな身なりでかっこよく生きることができる「ミッシー族」というモデルを示してくれた作品でもある。

 

 96年~98年『龍の涙』(KBS)159回
PD:キム・チェヒョン 脚本:イ・ファンギョン
主演:キム・ムセン ユ・ドングン

時代物ではあるが、現代の政治状況をうまくドラマの中に反映させ、時代劇の新しい地平を開いたという評価を受けた作品。物語は高麗末期の1388年、中国・明の驚異に晒されている高麗王朝に対してイ・ソンゲ(キム・ムセン)が反逆を起こすところから始まるが、その後イ・ソンゲが朝鮮を建国し、息子に王位を譲るものの、5番目の息子で、歴史上では太祖と呼ばれているイ・バンウォン(ユ・ドングン)がクーデターを起こして実の兄から王座を奪ったりといった権力争いが描かれ、世宋大王の時代までを取り上げている。それ以前の時代劇はスケールが小さくちゃちな感じがあったというが、『龍の涙』ではセットにもお金をかけ、大勢のエキストラも使って演出もダイナミックに撮影された。画面からも重厚感が伝わってくる。イ・ソンゲを始め、イ・バンウォン、参謀役のチョン・ドジョンなど、登場する歴史的人物の再評価も成されたという。キム・チェヒョンPDは韓国の大河ドラマのPDの中で最も有名な人。このドラマを撮ってから、世界中で一番大河ドラマをたくさん撮った監督として韓国のブリタニカ百科事典に話題の人として名前が挙がったほどだという。このドラマだって159回も続いているし、他のも併せると、演出回数が60分物に換算してなんと1700話以上にも達するという。10時台に放送されたが、普段テレビを見ないお父さんたちが、お酒も飲まずに家に帰り、テレビの前に釘付けになる効果もあったという。

 

2000年『ホジュン』(MBC)64回
PD:イ・ビョンフン 脚本:チェ・ワンギュ
主演:ジョン・グァンリョル ファン・スジョン

小学校の教科書にも出てくる朝鮮時代中期に実在した医師ホジュンを扱った時代劇。時代劇としては初めて視聴率60%を突破し、韓国テレビドラマ史上歴代4位の視聴率を記録し。原作小説が売れ、漢方に注目が集まるなどホジュンシンドロームを巻き起こした。

ホジュンは妾の子だったものの、数々の苦難、逆境を乗り越えて現代でいう総理大臣クラスにまで上り詰めた人物。ホジュンの残した「東医宝鑑」は完成度の高い医学書として評価されている。韓国が97年末から突入した不況のIMF時代の苦しい時期にホジュンの生き様が視聴者に希望を与えた。時代劇ではないような時代劇を作ろうという意図の元に、時代劇を書いた経験のない作家、『総合病院』などの現代ドラマで知られるチェ・ワンギュ氏を起用した。ホジュン役のジョン・グァンリョルと、ホジュンを影ながら慕うイエジン役のファン・スジョンは