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潜入取材

俳優養成所「韓国放送文化院」

※2003年7月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)より

韓国の俳優養成の現状がどのようになっているのか、代表的な俳優養成所を訪ねてみた。

日本と違って韓国では、大学の中に演劇映画科(大きく分けて演劇、映画、放送演芸科がある)が多く存在するので、俳優養成所の数は少ない。

だが、その中でも韓国放送文化院は、現在活躍しているタレントたちのほとんどがここの出身のため、「芸能人士官学校」と呼ばれている芸能人の養成所だ。

韓国放送文化院は、1987年に国の許可を得て作られた教育機関。その当時10校ぐらいの小さな養成機関はあったが、純粋な演技の教育だけで、そこで学んだ生徒たちを芸能界に送り出すシステムがなかった。というのも、韓国では、学校において利益の追求はしてはならないという法律上の問題があったからだ。

そこで、放送文化院は純粋に教育するところにし、それとは別途にMTMというマネージメント機関、いわば芸能プロダクションを併設して、養成から仕事の斡旋までの一元化を目指した。

そのためほとんどのタレント志望者がここで学ぶようになり、そのほかの養成所は3校ぐらいという、いわば放送文化院の一人勝ち状態になってしまったそうだ。

日本で知られているところでいえば、『八月のクリスマス』『カル』のシム・ウナがここからMBCのオーディションに合格した。ほかにも『イヴのすべて』のキム・ソヨン、チェリム、ハン・ジェソク、『秋の童話』のソン・ヘギョたちが在籍していた。歌手でもここで演技を学んだ経験者が多く、S.E.S.のシュー、ピンクルのイジ、神話のキム・ドンワン、元H.O.T.で現在ソロで活躍中のムン・ヒジュンなどなど、そうそうたる名前が挙がる。

みんなここで学んでオーディションを受けたり、大学の演劇科に行ったり、またはMTM所属になったりと、ここがスタートになっている。

俳優だけでなく、MCも、リポーターも養成している。また、すべての放送局で子役として出ている子供たちの80~90%がこの学校の子供たちということで、韓国のギネスブックに、「新人発掘としては韓国最大である」という項目で載っているそうだ。

ここの教育システムは、現場でどうやるべきかということを主に教えている。俳優コースを例にとってみると、まず1段階1ヶ月と考えて、1、2段階で基礎演技評価と能力の把握をし、3、4段階は演技の基礎固めから、場面練習、即興劇などオーディションの準備訓練を始める。5、6段階は身振りや感情表現をさらに深め、現場さながらのVTR撮影などを行う。応用実践で、現場に見学に行って学ぶというのもあるそうだ。7、8段階ではワークショップと制作。9、10段階はオーディションの練習など。そして終了後は、MTMが、ここで学んだ生徒たちをできるだけ外に出して、実践で活躍できるようにしてあげるのだという。最後まで課程を終えるのは、最初の4分の1程度の人数だそうだ。

 

韓国放送文化院のファン・イノ理事に話を聞いた。

スターになるためには、
 演劇映画学科を卒業することが大事

 ――どういったところに力を入れて教育しているんですか?

「ひとつは話術です。演技も含めますが、セリフを読んで演技に合ったようにしゃべるということです。ふたつ目はカメラの前でどういうふうにすればいいかという、カメラの前での適応訓練です。あとは表情と動作です。

これらに特に力を入れてカリキュラムを組んでいます。実際のドラマの本番で使っている台本を持ってきて、本当にそこで撮っているように、カメラだけを意識して演技をする”対カメラ演技“をする形をとっています。まずカメラを怖がるという恐怖心を取り去って、カメラに慣れることを念頭に置いて訓練をしているんです。

表情演技は大げさに感じられるといいますが、そのへんは国民性の違いですかね。韓国人は強烈で過激なのが好きで、日本人はどちらかというと安らかに見られるスタイルが好きですよね。弱冠そういう差違はあるかと思いますね」

――募集時期は?

「1年に4回です。1月、4月、7月、10月に募集があります。最初からあまり振り分けないで、学びたいという人にはできるだけ学ぶ機会を与えるようにしています。幼稚園児から高校生ぐらいまで1回でだいたい150人ぐらいの応募があります。

1987年当時は、700~800人の応募がありました。それがだんだん今の数字に落ち着いてきました。その理由は、当時は大学の演劇・映画科が5つぐらいしかなくて学ぶところが少なかったのですが、今は短期大学で20、4年生大学でも20ぐらいあるので、最初からそこで学ぼうと、そちらにずいぶん流れているのではないかと思います」

――大学の演劇科はどんな試験をしているんですか? こちらにはその特別コースもありますが。

「いわゆる大学の入試と高校3年生までの内申書、そして実技がプラスされます。この内訳は、だいたい内申書が3割、入試が3割、実技が4割です。

多いところは実技が6割を占めるところもあります。その場合は入試と内申書は2割ずつです。ですから実技がすごく大事なんです。

試験内容は、年によって違いはありますが、ほとんどが台本から出ます。だいたい韓国語のオリジナルのものと、外国の翻訳物がひとつですね。韓国の有名な劇作家の作品や、シェークスピアやテネシーウィリアムズといった有名な作家の台本が取り上げられます。

倍率は名門といわれている東国大、中央大、ソウル芸術大学の3校は20~30倍、年によっては40倍になるときもあります。地方の大学は認知度も下がるので10倍ぐらいですね。

今韓国で一番倍率が高いのは、大学すべての学科の中で演劇映画科になっています。それはやはり芸能界というものが広く一般的に知れわたるようになって、みんながひとつの職業として認めているということの現れだと思います。

大きく分けて、演劇、映画、放送演芸科というのがあるのですが、放送演芸科はテレビのほうで、外見を特に重視します」

――大学の演劇映画科で学ぶ内容は、この放送文化院で学ぶことと変わらないんですか?

「そうです。先生たち自身も大学の演劇映画科を卒業しているので、結局そこで習ったものをここで教えているんです」

――だいたいみんな学歴も求めて一石二鳥ということで大学に行くんですね。

「やはり韓国は学歴社会なので、大学を出たということが必要なんですね。で、大学卒業というのがまず一番大事なんです。

演映科といっても演技だけでなくて演出もやれば、カメラ、音響を教えるものもあるので、専門家を育てるという意味では4年間じっくり勉強するのもいいかもしれませんね」

――テレビ局のタレント採用はどのようなものだったんですか?

「韓国には主な放送局が3局あるのですが、そこでだいたい1年に20人選びます。比率としては、男が7人、女が13人です。

3局合わせると1年で60人ということになりますが、その中から残るのは10%ぐらいという数字にしかならず、あまり効果的ではなかったといえますね。

ただここに選ばれた人たちも大学の演劇映画科出身の人たちが多いです。結局は大学の演劇映画科の子たちが選ばれるので、まずは大学に行こうということになるんです」

 

 演技力と魅力があるかないかに
  人々の関心が集まっている

――今と昔で求められるスターに違いはありますか?

「20年前のスター、特に女性のトップスターは本当に人形みたいなかわいい顔をして、すべての人に好感を持たれる人がスターだったんです。それも5人ぐらいしかいませんでした。

その当時はテレビが普及せず映画が中心でした。その後カラーテレビが普及するようになって、多くの人がテレビを通じて演技というものに注目するようになり、演技がうまい人が人気を得るようになってきたんです。

その中で特にテレビで生まれたスターというと、チェ・ジンシル、シム・ウナの2人が挙げられます。彼女たちは大学の演劇映画科を出ていないのですが、演技に関してとても努力した人たちです。

努力して積み重ねて大スターになりましたが、彼女たちが登場してきてからいろんな人たちがスターとして出てくるようになりましたね。

今は演技、そしてかわいい、かわいくないは別として、魅力があるかないか、この2つに人々の関心が集まっていると思います。男はそんなに変わってないと思いますけど、個性のある顔と演技力が大事ですね。そしてやはり顔はいいほうが受けますね」

――若い子でもみんな演技がうまいから感心して見ているんですよ。

「本人たちがとっても一生懸命なんです。私は常々どんなにいいスターが先生として教えてくれても、あくまでも自分自身の気持ちと努力が大切だと学生たちにいっています。

それとだいたい1回に200人くらい入ってくるとしても、課程を全部最後まで終える人はそのうちの4分の1ぐらいです。40人から50人くらいですね。

課程を終えた人はだいたいMTMでいろんな機会を与えることになります。その中から、この子だったらいけるなという子がいたら専属契約をします」

――例えばどんなタレントがいつごろここで学んでいったんでしょうか。

「キム・ヒソンは高校2年生のときに来ました。アン・ジェウクは高校3年生で演劇映画科に進むためにここに来て、ソウル芸大に進みました。キム・ソヨンは中学2年生のときです。

イ・ジョンヒョンはやはりここで勉強中だったのですが、とりあえずオーディションを受けに行ったとき、チャン・ソヌ監督が彼女をパッと見て、『この子だ』と決めたんです。彼女には神気、オーラが出ているんです。先天性の何かを持っているんでしょうね。

カム・ウソンはソウル大学の美術科を出ているのですが、ここで学んで、その後何もなかったのですが、MBCのタレント養成募集に候補生として何人か送り込むときに彼の存在を思い出して試験を受けさせた結果、MBCに合格したんです」

 

 いつかきっと大スターになって
  見返してやる

――素人からパット出てくるタレントさんなどはいないんですか?

「若い子で、一般人の目には急に出てきたように見えても、実はちゃんと4、5年の下積みがありますね。今の韓国で急にパッと出てくるという方法はあまりないと思います。きちんと教育を受けた人が多いです。

でも、チェ・ジンシルとシム・ウナは例外です。彼女たちはほとんど教育は受けずに高校を卒業したまま、まずCMモデルから入った2人ですね。

チェ・ジンシルは貧しい家庭で育った人で、そういう意味ではとても苦労した人です。キム・ヒエと言う当時売れっ子スターのCMで、チェ・ジンシルはエキストラとしてキム・ヒエの後ろでダイビングをするシーンがあったんです。

チェ・ジンシルはそれを30回も40回もやった経験があります。今はエキストラだけど必ずトップのCMモデルになってみせるという彼女の心情があったと思います。

彼女はKBSのタレント採用に落ちているんです。当時はすでにサムスン電子のCMで活躍していたんですけどね。で、うちのMTMで彼女をMBCのドラマ『朝鮮王朝500年』にキャスティングしたんです。そのときから『あの子いいね』と放送局のいろんなPDに注目され始めたんです。

MBCでだんだん人気が出てきたらKBSから出演依頼が来たのですが、チェ・ジンシルはそれを断りました。韓国ではそういったことはすごくタブーなんです。本当のトップであればそれも可能なのですが、当時のチェ・ジンシルクラスではまだそれはしてはいけないことでした。本来であれば来たものは全部やるという姿勢でないといけないのです。彼女だからこそできたことだと思います。

それ以来17年間KBSに一度も出ていませんよ。自分がこう決めたら絶対曲げないという彼女の芯の強さがここにも現れていると思います。そこにはKBSと戦ったチェ・ジンシルがいるわけで、いつかきっと大スターになって見返してやるという気持ちがあったからこそ、今の彼女があると思います」

――他の人たちの印象的なエピソードはありますか?

「シム・ウナは選抜大会で優勝して放送文化院に入ってきたんです。

3ヶ月演技指導を受けてテレビ局のタレント養成を受けるに当たって写真を写すんです。写真審査は一番始めの選考でとても大事ですからね。だいたい1ロール(20枚)写して、その中から写真を選ぶのですが、彼女はなかなか気に入らなくて、結局20ロール、400枚写して、そのうちから選んで出したんです。

ソン・ユナは父親が高校の先生ですごく厳しい家庭で封建的な家風だったんです。彼女は小学校の頃からタレント志望で、父親が、大学に、それも演劇映画科でなく普通の科に合格したらやってもいいと条件を出したので、すごく一生懸命勉強して大学の文学部に入りました。それで、大学在学中にこの放送文化院に来たんです。ここで1年学んでKBSのタレント養成に行きました。

スターとして名前の認知度が上がるまでにはだいたい誰でも3、4年かかります。でも香港のウォン・カーワイ監督がここに来たときに、いろんなタレントの写真が入り口の壁に貼ってありますよね。それを見てソン・ユナの写真を指さして、『この子が多分成功する』といったんです。それが3、4年後にその通りになったので、びっくりしました。

ムン・ヒジュンは歌手ですが、高校のときにここで学びました。彼は舞台でここでの勉強が今の歌手生活に生きていると常々いっていますよ」

 

  言葉の持つ意味を想像できないと
  演技はできない 

この後授業風景を覗かせてもらった。成人クラスで、入所してから7ヶ月ほど経った生徒たちだ。

この学院が力を入れているという話術の授業だった。クラスの半分はプロモーション用の写真撮影に行っているということで、この時間の生徒は男の子ばかり7人だった。

椅子に腰掛けた生徒たちは、先生から1枚のセリフの書かれた紙を渡され、感情や演技を入れながら読んでいく。大人が子供を叱り、最後には言い含めるという内容のセリフが書かれたシーンだ。

前もって先生が注意していたのは、「イントネーションをチェックし、セリフの中で一番怒るべきキーワードを前もってチェックし、必ず強弱をつけること。そしてセリフの意図を変えずに汲み取って表現すること」だった。

そして生徒に読み上げさせながら、具体的に一つ一つの感情をどう表せばいいか説明をしていく。

例えば、「ここではまだ感情を爆発させてはだめだ」「ここは、セリフにはないがその背景のことを考えながらしゃべっているセリフだ」「ここは純粋な気持ちでしゃべろ」「大人だったらこのセリフの後はきっと子供からの答えはわかっているはずだと言うことを考えながらしゃべるんだ」「計算されたうえでの咳払いとか、しぐさも考えて入れていけ」「長いセリフのときには息づかいを考えろ、普段から長いセリフを読む練習をしろ」「子供が泣き出したら今度は押さえてしゃべれ」「声が小さい。男ならもっとエナジーを出せ!」などという注意が矢継ぎ早に飛んでいた。

さすがに力を入れているというだけあって、ワンシーンのセリフの読みに対してすごくきめ細かい指示を与えている。

私はこうした注意を聞きながら、今活躍している俳優さんたちはこうしたことをしっかり学んできているからこそ、ぶれのない演技力が身についているんだなあと、韓国俳優たちの演技力の高さの裏づけを垣間見た気がした。

生徒たちがひと通り読み終えた後で、「一番大事なのは韓国語についてもっと勉強をして知るべきだ。言葉の持つ意味、会話で持つ意味を想像できないと演技はできない。言葉は演技者にとっては一番大事だ」と授業を締めくくっていた。このあたりは日本の若手演技者たちにぜひとも聞かせたい言葉だった。

 

  • 放送文化院の演技学科の具体的なコース案内(2003年取材当時のものです)

4歳から45歳まで入学可。一応大韓民国の国籍を持つ人なら資格があるということだが、ファン理事は、「韓国語が話せるなら日本人でもいいですよ」といっていた。

○昼間コース=期間、授業時間
速成クラス(成人)
10ヶ月、週6日、1回2時間
一般クラス(成人)
11ヶ月、週3日、1回3時間半
幼児クラス
期限なし、週2日、1回2時間
初等クラス
期限なし、週3日、1回1時間半
主婦ミッシークラス
6ヶ月、週3日、1回2時間

○夜間コース
学生クラス(中1~高2)
2年、週3日、1回1時間半
成人クラス
9ヶ月、週3日、1回2時間

○週末・日曜コース
初等クラス
期限なし、週1日、1回7時間
学生(中1~高2)
2年、週1日、1回7時間半
成人クラス
9ヶ月、週1回、1回7時間

○演劇映画、放送演芸科入試クラス
芸術高校クラス
2年、夜間週3日、1回2時間
日曜週1日、1回6時間

芸術大学クラス
1年、昼間週3日、1回2時間
夜間週3日、1回2時間
日曜週1日、1回6時間