コラム・取材レポ

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潜入取材

芸能情報番組『ハンバメTVヨネ』スタジオ

※2003年7月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)より

芸能ニュースを報道する番組として、韓国にも芸能情報番組がある。

日本のように、事件や事故、生活情報などと一緒に芸能ニュースを扱ういわゆる”ワイドショー“ではなく、取り上げるのは芸能ニュースのみだ。

その中でも一番長く続いているのが、1995年から始まったSBSの『ハンバメTVヨネ(一夜のTV芸能)』で、SBSの看板番組のひとつになっている。この番組に潜入取材を試みた。

SBSの『ハンバメTVヨネ』は、毎週木曜日の夜11時10分から放送される70分番組だ。

ライバル局も、MBCが毎週水曜日の夜11時5分から12時5分まで『セクションTV』を、KBSが土曜日の夜8時50分から10時まで『芸能街中継』を放送している。

日本では、朝と昼下がりがワイドショーの時間だが、韓国の芸能番組は、夜から夜中にかけてやっているのである。

『セクションTV』が、スタジオに一般視聴者を入れ、歓声や笑い声なども一緒に放送する芸能情報バラエティ的なのに対し、『ハンバメTVヨネ』は、芸能情報ジャーナリズムを標榜し、他局との差別化を図っている。

韓国の『TV TIMES』の記事によれば、民言連選定の2001年の悪い放送に『セクションTV』が挙げられたという。

その理由が、自局番組のドラマやバラエティ番組の現場密着のように広報中心で、有名芸能人の行き過ぎたプライバシー報道が見られるからというもの。

また、MCとリポーターのやり取りにジョークや無駄話が多いというのも指摘された。特にMBCは公営放送を前面に押し出しているので、より一層放送に対する責任を持つべきなのにというのがその理由のようだ。

『セクションTV』は、私は結構楽しく見ているのだが、この記事を読んで韓国はお堅いお国柄なのだと改めて感じた。

日本でも、NHKでさえ自分の局の番組からゲストを呼んでトークをするというような大っぴらな広報的な番組まであるし、視聴者もそれに難癖をつける人はいないだろう。

しかし韓国では、放送3社の番組で、チェ・ジンシルとチョ・ソンミンの結婚式のニュースを、似たテーマと似た場面、似た内容を並べて放送しているということも槍玉に挙がっていた。素材が結婚式だし、これはある程度は仕方がないと思うのだが……。

そして、人気スターらの単純な事件報道を離れて、芸能界の問題点や今後の展望などに関する建設的な報道に力を注がなければならないと訴えている。

願う心はわかるが、やはりそればかりでは面白くないだろう。だってやはり視聴者の立場として、芸能界にはエンターテイメントを期待しているものだから。

案の定、そんなことを言われても『セクションTV』は、その後も相変わらず独自のバラエティ路線を貫いている。

 

本番前にちょこっとインタビュー

さて、テレビ3局の芸能番組のうち、SBSの『ハンバメTVヨネ』にお邪魔した。(2002年8月29日取材)

この番組の責任者、キム・ジョンチャン部長によれば、「『ハンバメTVヨネ』は歴史が古いので、ディレクターたちも、アプローチの仕方が他局に比べてより専門的だと自負しているが、現在は各局間の取材合戦が激しくなっている。

また、ここ最近芸能プロダクションの力が大きくなってきたので2、3年前よりも取材も大変になってきた」とのことだ。

実は2000年に、この番組の取材班に同行取材させてもらったことがあるが、当時の視聴率は30%近くだった。しかしそれから数年経った現在の視聴率は15%ほどで、他局も含めて芸能ワイドショー自体以前よりも数字が低くなっている。

この芸能ワイドショーで大事なのは作家の存在。私が訪問した日も広いデスクを取り囲むようにして、作家たちがパソコンを前に原稿を書いたり、映画会社や俳優のプロダクションに電話でアポを取っていた。

なんと全員が女性である。そのうちのひとりマ・ヨンさんに聞いてみた。

 

    独占ニュースが
 撮れたときが一番うれしい

 ――作家の仕事の範囲は?

「一応芸能に関する事件などが起こると、その現場に電話をして事実を確かめて、こういう内容でインタビューさせてほしいと要請をすることまで含まれます。

そうしたら今度は当事者の俳優のマネージャーにも電話をして、こちらの取材希望を伝えてアレンジをお願いし、現場で直接聞いた取材者のリポーターが帰ってきたら、話を聞いてVTRを見ながら構成を作って、こういうふうに編集して下さいと編集PDに伝え、そしてできあがってきた完成品を見て、またチェックします」

――ひとりでいくつのネタを担当するんですか?

「この番組に作家は全部で7人いますが、みんなで分業しています。芸能、映画、広告(広告代行社、プロダクション)、カタログ、雑誌、写真作家、セットと言うように分かれています。

私は芸能と映画を担当してます。同じ分野のネタが重なってしまうときは何かひとつにして、その代わり企画ものをやります。NG集をやったり、デザイナーのアンドレ・キムが本を出したらその書籍の紹介をしてみたり。

今日のようにイ・ジュイルさんが亡くなったときには、ドキュメンタリーを組んでみたりして、企画ものに振り分けます」

――取材内容については?

「毎週コンセプトがあるんです。例えば、ヒッピーだったらヒッピー、正装だったら正装というようにそのコンセプトに合わせて写真を撮ったりカタログをやったりということを決めて作り上げていきます。

そして、いつも決まっているものというのはあるんです。今週だったらパク・シニャンさんの婚約発表、イ・ジュイルさんのお葬式という急な突発ものが2つあって、企画ものがひとつ、スポーツ選手、特にサッカー選手ネタを最近は必ずひとつ入れるようにしています。

あとは番組の直前まで新聞読んでチェックして急に変わる場合もあります。

――どういうところにやりがいを感じますか。

「うちの番組しか撮れなかったという独占ニュースが撮れたときが一番うれしいです。

火曜日にアン・ジョンファン選手とキム・ジェウォンというすごく人気のあるスター2人がCM撮影をすると言う情報が入りました。実はMBCの『セクションTV』が水曜日放送なので、そちらで先に放送されてしまうところだったのです。

そのときに撮影現場にカメラが同時に入ったのですが、『セクションTV』のカメラのほうは直前になってダメという事になったんです。それで結局、『セクションTV』に先を越されずに第1報をうちの番組で放送することができました。

それも、この渉外、交渉の力があったからこそできたことなので、こういうことがあればあるほどやりがいを感じます」

――キャリアはどのくらいですか?

「もうこの仕事は5年やってます。今28歳です。この仕事の平均年齢は26歳ですね。

韓国の作家たちはひとつの番組にだいたい6ヶ月から1年。それが終われば他の所に行くか、そのまま残るかということになります。それは個人の自由ですけどね」

――それにしても女ばかりですね。

「コメディー番組やバラエティには男性が多いのですが、こういった芸能関係は女のほうが多いです。ここに男が入ると均整がとれなくなるので女ばかりがいいんですよ」

『ハンバメTVヨネ』に登場するリポーターは毎週だいたい7人。その中でも最も有名でこの番組の顔的存在のチョ・ヨングリポーターに話を聞いた。チョさんはネチズンが選ぶ韓国のリポーター第1位に選ばれたこともあるのだ。

 

 嫌だなという気持ちは
  いつも持っています

――仕事の範囲は?

「芸能人の身辺に起こるいろんな出来事、結婚、離婚、などのすべての事件を取り扱うことになっています。私は芸能専門でやっています」

――そのために日頃からプロダクションとはなかよくしたりして情報収集しているんですか。

「どちらかといえば、プロダクション側とはそういった緊密な関係を持たないようにしています。というのも、なかよくなってしまうと、もう今日はこれくらいで勘弁してといわれてしまうとそれ以上の突っ込んだリポートができなくなってしまうからです。

あえてある意味での親しい関係にはならないようにというのが、この『ハンバメTVヨネ』の方針です。鋭く突っ込むというコンセプトなので」

――チョ・ヨングさんはずっとこの番組なんですか。

「もう5年半になります。どちらかというと芸能人にとってうれしくないニュースを扱っていると思います。だから私が行くところは、裁判所とか、警察署とかが比較的多いです。

そのせいで芸能人の方々は、私のことをすごく親しみを込めて見てくれる人もいれば、反対にすごく嫌いという人もいます。

芸能人の中には、私がやることを私生活の侵害というふうに見る方もいます。しかし、私たちには私たちの一定の知る権利がありますので、その線を越えない程度に、スターだけれど、彼らにも痛みがあって、喜びもあって、悲しみもあるということを伝えたい。

彼らも人間なんだということがわかってこそ、ファンがもっともっと彼らを好きになると思うので、そういうことを自分はやっていきたいと思っています」

――嫌われる取材が多いということは精神的にもちょっとつらいですね。

「まず朝起きて芸能欄のニュースで、誰々が離婚したなどという記事を見ると、ああまたこれに取材に行かなくちゃと思って気が重いです。

実は私ほど、韓国のスターに何度も何度も繰り返し会っている人はいないと思います。だから僕にとって彼らは一番の友達になりやすい関係なんですが、結局そういう関係にはいつまで経ってもなれないんです。親しくなると突っ込めなくなるから私自身もそういう関係になるのをどこかでセーブしているところがあると思います。

そして、あと数分で現場に着くという車の中でさえ胸が痛かったり、嫌だなという気持ちはいつも思っています。現場に着けば着いたで、マネージャーさんたちと衝突したり、押し合いになったりしてとても胸が痛いです。

このごろ特に芸能人たちが取材から逃げるのがうまくなってきたんですよ。だからもっと取材が難しくなってきています」

――どういう経緯でリポーターに?

「SBSの公募があって、そのときに応募してリポーターになりました。そのときの競争率が480倍で、私が選ばれました。

いろんな仕事をしているのですが、一番大事なのは、この『ハンバメTVヨネ』です。

韓国のこういう番組のタレントはフリーランス契約を結んでやっている人が多いのです。私はもちろんKBSの仕事もMBCの仕事をしますが、SBSの『ハンバメTVヨネ』が一番やっている時間が長いので、他の番組で取材に行っても、ああSBSの取材で来たんだねっていわれますね」

――『ハンバメTVヨネ』の顔なんですね。

「1回の放送の中でだいたい7個か8個のトピックスを紹介するのですが、多いときは半分ぐらい私がやることがあります。

私が担当するのはどちらかといえばCM撮影とか、記者会見とかいった平凡な取材ではなくて、多分誰もコメントが取れないだろうというような難しい仕事が私に回ってくるので、それをやっています。

だからそういう大変な現場に行くことで、あるときは買って2ヶ月しかたっていない新車を、解散発表をしたアイドルグループジェクスキスのファンたちから、マネージャーの車と間違えられてボコボコに壊されたことがあります(芸能ニュースの『人気グループ、H.O.T、ジェクスキス解散騒動』の項参照)」。

 

この5年間、ソウルを
  離れたことがありません

――芸能リポーターとして必要とされる能力は何だと思いますか。

「誠実さだと思います。私の場合、月曜から木曜日の4日間はほとんどをこの『ハンバメTVヨネ』のために使っていますし、時間をささげています。

あるときは5分男といわれるみたいに、5分以内に必ず私とは連絡を取れるという具合に自分の生活を整えていましたし、それを常に心がけていました。

取材ができるという保障がなくても12時間でも張り込んだり、CMの撮影が終わってからといわれれば、終わるまで7時間でも何時間でも待っていますし、このように、時間と熱意をこの番組にささげていると思っています。

仲間たちとお酒を飲むんですが、結局電話がかかってくると私はすぐに席を立たなければならないので、先輩や同僚たちから『一度でいいからお前と一緒にゆっくり酒が飲みたい』とよくいわれます」

――時間を空けておいて、何かあったら呼び出されていくと言う形なんですね。

「実はこの5年間、ソウルを離れたことがありませんし、まとまった休暇をとったこともありません。なぜかというと、いつ何が起こるかわからないので気が気でないと言うこともありますし、本当に何も起きないねと念を押して出かけても、結局は呼び戻されてしまうことが多かったので、もう遠出はしていないんですよ」

――病院の中に撮影に行ったり、結構えぐい部分まで行ってますよね。

「もちろん留置所の中までは行けませんが、警察署内で尋問を受けているところとか、移動中とか、裁判所から出てきたところとかは撮りますね。

病院の中は基本的に撮影許可が出ているんです。ただこういった芸能番組が視聴率もよくて人気も高いということになってくると、ほかのテレビ局も始めるわけですよね。

そうすると今までは1社だったところに3社、4社に雑誌なども含めてすごく多くの取材陣がやってくると結局熾烈な戦いになって、今はマネージャーたちもそれを警戒して、警備員をつけたり、病院やそういうところには入れないようにしていたりしますよ」

――一番うれしかったのは?

「『ハンバメTVヨネ』は芸能報道番組の中では一番歴史が長くて、500個ぐらいあるすべての番組の中で視聴率1位を何度も取ったことがあるほど高く評価されているんです。

そのときに部長から『ありがとう』と声をかけてもらったことがすごくうれしくて胸にジーンと来ましたね」

チョ・ヨングさんの話を聞いて、リポーター事情は日本のワイドショー番組のそれとほぼ同じだなと思った。ただ日本の場合はワイドショー番組が多いので、その分、取材カメラ、リポーターの数もいるので、余計に競争が熾烈になってくるのだが……。

 

 本番スタート

そして、生放送の本番にも立ち合わせてもらった。夜11時10分の放送開始に合わせてMCやリポーター陣は5分前にスタジオ入り。ちなみにMCはフリーアナウンサーのユ・ジョンヒョンと、人気抜群の美人コメディエンヌのキム・ジョンウンだ。

ぎりぎりまで作家陣があわただしくスタジオと編集室を行き来している。番組タイトルが入って数分間のCM中に、いきなり緊張感が走った。

最初のイ・ジュイルさんが亡くなったニュースをやることになっていたリポーターが、「台本がないよ!」と言い出したのだ。

するとスタジオにいた作家が、「今持って来ます!」と駆け出す。

MCの顔が少々こわばる。結局間に合わなかったらしく、冒頭はイ・ジュイルさんへの哀悼のコメントを述べて、このニュースは後ほどという形をとり、パク・シニャンの婚約のネタを先に放送することになった。

VTRを流している最中にも作家から読み原稿が差し替えられる。作家がモニターの前で、インタビューとインタビューの間をつなぐコメント読みのQ出しをし、リポーターはそれを見ながら原稿を読み上げる。

生でコメントをつけているため、常にマイクが生きている。なので指示は手話みたいに身振り手振りで伝達している。

パク・シニャンのニュースが終わった後は、無事イ・ジュイルさん死亡のVTRが流れた。これを長めに放送した後は、いつものような平和な芸能ニュースの話題が並んだ。

ちなみにこの日の放送メニューは、

③SBSで放送中のドラマ『ライバル』で、人気スターのキム・ジェウォンとソ・ユジンがキスシーンを撮るということで、その現場に密着した話題

④映画『マッチ売りの少女の再臨』の話題

⑤スーパーモデル候補の訓練に密着取材

⑥映画『恋愛小説』のマスコミ試写会の様子

⑦godのビデオコンサート

⑧アイドル歌手で俳優のチャン・ナラのCM撮影現場取材

⑨コミック映画のNG集

⑩新人歌手ピ(RAIN)とフィソンの話題。

以上の10ネタだ。MCのキム・ジョンウンは本当に楽しそうにVTRを気軽な感じで見ていて、気取りがない。

しかし、スタジオ内は常に静かで、出演者たちに指示を送るフロアディレクターらしき人はいるが、「○秒前!」と声もかけないし、何秒前と書かれたフィリップも出していない。

生放送だというのに秒合わせをしなくていいのか?そういえば生放送にもかかわらず、進行表にVTRの時間や、だいたい何分までにこのネタに入っているというような目安の時間などが書き込まれていなかった。

1階のスタジオを後にして、6階の副調整室(サブ)に行ってみると、やはりこちらも静かで平和そのもの。日本だと、生放送の場合の副調整室は、「早く次に行け!」とか「VTR間に合ってないぞ!」とか、「まいてしゃべれ(急いでしゃべれ)!」などという怒号が飛び交い、ピリピリしている。

ようやく11時55分ごろにキム部長から、「時間はどう?」という問いかけがあって、ディレクターから、「1分半予定を過ぎてます」というやり取りがあっただけだ。

ここで気づいたが、なんとタイムキーパーもいない。12時13分すぎたところで最後のネタに行くが、ここでサブからやっと「急げ急げ」という声が小さく飛んだ。

MCの最後の挨拶が終わったのが12時19分。そこでCMに入り、番組の最後のテロップが出て、正真正銘終わったのは12時23分19秒だった。本来番組は70分なので12時20分に終わるはずなのだが、3分少々オーバーしていた。

「お疲れ様でした」とスタッフに声をかけた後で、キム部長に、「時間オーバーしても大丈夫なんですか?」と聞くと、「いや、本当はよくないけど、今日はイ・ジュイルさんのお葬式のニュースが入ったから特別ということで、まあ仕方がないです。夜の番組は朝の番組ほど時間にうるさくないので」との答えだった。

なるほど、だから韓国の番組って毎回時間の長さが違っていてもわりと平気なのね。こんな大らかなところは韓国らしい。どうりでタイムキーパーがいなかったわけである。